●菊の湯に使われた石材
「菊の湯は昔からこの種の石を使ってたのですか?」と辻森氏。
総湯は浴槽の底以外、床面から側壁まですべて、花崗岩様の石材が用いられています。1992年の全面改修以前は、すべて浴槽の底のような、恐らく凝灰岩でした。少なくとも花崗岩は使われていませんでした。今の石材は明らかに輸入品です。
格調高い見てくれとは逆に、「趣味が悪い。温泉ではなく、まるでホテルの大浴場」と批判的な声が、特に年配の人の中から聞かれます。ある高齢者の方は風呂に身を浸しながら、こんなことを語っていました。
「浴槽の縁にあたる部分は、とりわけ滑って危ない。以前の石材の方がずっと良かった。昔は地元で採れる石を使ったに違いない。町中のほど遠くないところにも石切り場があったのを、私は覚えているよ」
温泉が国民的レジャーとなり、掛け流し式から循環式に転換したことで、浴客の収容力は飛躍的に拡大しました。これが、今温泉本来の姿を歪めたのでは、という反省が聞かれます。輸入材に囲まれた浴殿はその象徴かもしれません。