●石に刻まれた記憶
石碑から共浴場の浴槽まで、山中温泉のほとんどの石材は外部から持込まれたものでした。木製漆器の素地から観光客に提供される食材まで、輸入品が席巻するご時世です。これは時代の潮流であり、ある意味当然至極かもしれません。
そんな話をしている中で、一行は小さな地蔵の前で足を止めました。その地蔵尊は町の片隅にひっそりと置かれてあります。「これは正真正銘地元の石材です。間違いありません」辻森氏のことばになぜか、一瞬安堵のため息が流れます。いつ、誰によって作られたの分からないこの一体の地蔵も、静かに時代の流れを見つめ続けてきました。近づいて耳を澄ますと、何かを語りかけてくるような気がします。
土や石に刻まれた遠い記憶をたぐり寄せる。それがこのツアーの目的でした。無機質な鉱物は、私たちが思っているよりはるかに饒舌です。
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